景色をレイアーで捉える
景色を「レイアー(幾重にも重なる層)」という意識で捉えるには、ある程度の訓練が必要だと思っています。意識しないと忘れるし、目の前しか見ないということは、他の景色を、見ていないから。その点で、ヨーロッパの街並みは、景色の統一感や植物のアレンジも含め、よくできています。
街のランドスケープやインテリア・デザインの捉え方にしても、私たち日本人は、そのような訓練を受けて来なかったし、園芸の世界では、盆栽を筆頭に、目の前の事象を尊ぶ国民性を、その自然現象から否応なく 学ばざるを得なかったのではないか。などと、英国に住んでみて、思いました。いつ起こるかわからない地震や津波、巨大な台風に火山の噴火、さまざま、とても打ち勝つことのできない自然現象と一緒に生きて行くためには、今の、目の前のことを一生懸命やっていくほかないのか。ロングビジョンなど、なかなか作れないのか。
街の景色を作るために、道のワインディング(カーブ)のもっとも美しい角度を計算して設計された街区計画、ロンドンの街では18世紀には、それが完成して今もそれが、街の眺めの骨格となっている。
ランドスケープデザインに興味をもって大学生の頃にいくつかの本を読んでいるうちに、目にしたのが、「そもそも『ランドスケープ』という概念が、今までの日本にはなかった」 と、いう記述を目にして驚いたことを今でも忘れない。それは、1970年代に発刊された本だったし、私がそれを読んだのも、40年近く昔のこと。
(去年の秋に完成した、パリ市内のパトリック・ブラン博士のプランツウォール)
だから、ヨーロッパの街を見晴らして感じた、「この違いは、どこから来るのか」 ということでした。それならば、一度ヨーロッパに住んで検証してみなくては、と。
夫、吉谷博光と英国に住み始めた時期から、はや22年が経ち(帰国して15年)、随分時間が経過して、今ではイギリスが第二の故郷のような気もしています。
イギリスでもここ数年は洪水が起きたりと、地球環境の変動がその原因かどうかはわかりませんが、大きく変わり始めてる。それを、必ず毎年、一年に一度は訪ねて確認したいそう思っての、英国ツアーでもありまして、その訪問先、宿泊先のすべてを、旅行代理店のお任せではなく、すべては私の判断で 決めさせていただいております。良くなかったらどうしよう!と不安もありますが。
さて、ただ今、渋谷東急bunkamura ミュージアムにて、「ポルディペッツォーリ美術館」展を開催中です。ここをクリックしていたくと、昨日アップした私たちのコメント動画も見られます。夫も私も、年を取ったなあと。思う。
この美術展は、夫が空間をデザインし、私は今回の展覧会の記念ウエアをデザインしました。(オリジナル・ピクトグラフは、博光のデザイン)先日のトークショウでは、珍しく、めおと漫才ならぬ、めおとトークショウ。ちょっと恥ずかしい、どうかな?と、思っていたんですが、おかげさまで評判よく、面白かったと関係各位の評価を頂きました。ありがとうございました。でも、夫婦で登壇なんてねぇ、どう考えたって、恥ずかしい!んではありますが、リクエストを頂いたんで。仕方なく、えへへ。
でも、博光の話は、面白いと、常日ごろ私も思っております。その内容を少し。
レイアーの話がでました。空間の設計の段階では、平面図で設計をしていくが、実際の空間は、「立面が大切」であり、それは、レイアーの重なりで、空間がどう見えるかということ。今回のペッツォーリ空間で大切にしたことが「空間のレイアー」。今、見えている空間の先に何が感じられるか。何が見えて、どんな展開になるのか。それを、壁の色彩で表現した。空間の間仕切りは、本来のヨーロッパ空間を感じさせるため、壁の厚みをあえてふかして厚くしてある。(予算の都合で、結局一カ所だけ(笑)見える世界を「重なり」で見て行くと、さらに楽しめる仕掛けである。等々。最初はモノトーンの空間の重なりがあり、徐々にでてくるビビッドな色彩。後半もベネチア絵画の部屋におけるベネシアンレッドに至る展開が特に美しい。
ふだん日本の美術館の見学って、人も多いし、一枚の絵を、花に止まるミツバチのように「点」でしか見ていない場合が多い。けれども、ヨーロッパの美術館は空間の繋がりを睥睨するようにも出来ている。街並みも然り。庭の眺めも然り。
ちょっと、そういう習慣を身につける訓練にもなるのが、国際バラとガーデンショウコンテストガーデンかなあ。と、思いますね。コンテストガーデンを見ていると、背景に気を使って作りこんでいる人と、そうでない、目の前しか見ていない作品の完成度が全然違うことに気づくからです。
コンテストガーデン、皆様の作品がとても楽しみです。今年は、今まででも、またさらに施工時間が短いので事前準備が重要ですね。今頃みなさん頑張っているだろうな。
私も明日は樹木のセレクトに行ってきます。この週末は、寄せ植え撮影用に10点ほど作品を制作。久々にたくさん作りました。同時に秋冬ものの洋服のツィードのデザインをしているので、季節感がおかしなことになっています。今日は、肌寒い日曜です。